教職者K

教育について考えるブログ。

教師はそもそも苦しむしかない仕事かもしれない。

 最近久しぶりに大村はま先生の本を読んでいたんですよ。

日本の教師に伝えたいこと (ちくま学芸文庫)

日本の教師に伝えたいこと (ちくま学芸文庫)

  • 作者:大村 はま
  • 発売日: 2006/08/01
  • メディア: 文庫
 

 

知らない人のために説明しておくと,大村はまっていう先生は女性の方なんですが,日本の国語教育の大家みたいな人です。

 

もう亡くなられた方なんですが,それこそ日本の教員なら知らない人いないんじゃないかっていうぐらいの超有名人ですね。

 

もはや古典になりつつあるようなこちらの本なんですが,今こそそういう古典が必要な気がしてちょっと読んでみたんです。

 

そしてこの本の中に書いてあった,はま先生のポリシーにハッとさせられたんですよ。

 

というのも,多くの教師が覚えられない子,出来ない子に対して,

 

「もう一回やってみよう」

 

「出来ないのは回数が足りないんだ」

 

って言って何回も何回もやらせるじゃないですか。それこそ漢字練習とかっていうのはまさにその典型だと思うんですけど。

 

でもはま先生は,

 

「それで出来るようになるなら,もう日本中の子が漢字もっと書けている」

 

「それでも書けない子がほとんどなんだから,このやり方なんて全く無意味。教育のプロの仕事じゃない」

 

とはっきりとおっしゃっているわけです。

 

じゃあかくいう,はま先生はどう漢字を子ども達に教えていたのか?ってことが疑問になると思います。その例も載っていました。

 

例えば「精」という字を教えるとしましょう。

 

はま先生は何も言わずに漢字を黒板に丁寧に丁寧に大きくこの「精」の字を書くのだそうです。

 

子ども達はその姿をじーっと目で追う。視線を背に受けながらはま先生は字を完成させていきます。

 

全体に緊張感がある中で文字が完成した瞬間,

 

パッと消してしまう。

 

これによって子ども達の頭には「あれ?どんな字だったっけ?」「米に……なんだっけ?」みたいな疑問が浮かびます。

 

そこでもう一度黒板にゆっくりと丁寧に丁寧に「精」の字を書く。

 

すると子ども達は,自分が予想していたものとの合致しているかどうか食い入るように黒板の字を見つめます。そして合っていた時には教室に安堵する声が広がる。

 

そして,ここではま先生はプリントを渡します。こんな内容。

 

このたびはおめでとうございます。ところで、受賞なさったお菓子は、なんというお菓子ですか。

「森の」と申します。

「森の」と申しますと、あの「花の」とか「水の」とか、よくお話に出てくるあのですか。

               (途中略)

はあ、まず米をごく細かいのと、少し粗いのと、荒二種にひいて、水でこねるのですが、ここで少しでも不をして、こね方が足りませんと、いいものが出来ません。

 

ずいぶん力のいる作業です。それから、これはコツなんですが、塩はあら塩を使います。製塩は使いません。

 

こんな何回も「精」の字が出てくるプリントを書き写すように子ども達に促したっていうんですね。

 

なんだそんなもんかって思う人も居ると思うんですけど。

 

これ何が凄いって本当は文章がもっとずっと長いんですが,すべてはま先生の手作りの文章というところ。

 

さらに覚えさせたい漢字ごとにこれが用意してあるというではありませんか。

 

はま先生は「人は心が揺れ動いた時に一番ものを忘れない」としています。

 

だから、漢字一文字を教えるのにもどうしたら子供たちの心が動くのか、を考えぬいた結果この方法にいきついたというのです。

 

これ、凄くないでしょうか?

 

他にもはま先生は、「子ども達一人一人にその子が一番夢中になるであろう本を選んで,一人ずつ違う本を手渡していた」というエピソードもあります。

 

新編 教えるということ (ちくま学芸文庫)

新編 教えるということ (ちくま学芸文庫)

  • 作者:大村 はま
  • 発売日: 1996/06/01
  • メディア: 文庫
 

 (この本は教員必読です。大学生の皆さんはぜひ。)

 

そうやって手渡された本は多分一生忘れないと思うんですよ。

 

私自身学生時代を振り返って思い出すのはやっぱり心が動いた瞬間なんですよね。授業で自信満々だったのに間違えた時とか。

 

 

suno200002000.hatenablog.com

 

 

つまり,ここから言えるのは,我々が本当に子ども達にものを教えようと思ったら,

 

いかに題材を通して子供たちの心を動かすか,感動させるか

 

ってことだと思うんです。

 

じゃあどうしたら人の心を動かし,感動させることが出来るのかっていう話なんですけど。

 

私は,

 

苦しむしかない

 

と常々思っているんです。

 

もちろん,一部の天才は苦しむことなくアイディアがすらすら出てきて人を感動させる。そういうタイプの人もいるでしょう。

 

でも多くの人はそうじゃない。人を感動させるためには苦しんで苦しんで,準備したり練習した結果として,そういう瞬間が生まれるんだと思うんです。だって,どんなに運動能力が高くても苦労なく甲子園まで行けた人はいないでしょう。

 

だから,私たち教員ていうのは,そもそも苦しむしかない仕事なんじゃないかなって思うんですよ。

 

「おい、働き方改革っつってんだろうが!」

 

「そうやって教員が追い詰められてるんですけど!」

 

「苦しめばいいってもんでもないだろう!」

 

っていうツッコミが聞こえてきそうですね。

 

ここが難しいんですけど。

 

私はそれについては大学の時のH先生っていう方が授業で言っていた言葉をいつも思い出すんです。

 

こんな言葉だったんですけど。

 

「教師の仕事を全部本気でやろうと思ったら絶対に体もたないよ。だから,今年はこれだけは頑張るぞ。絶対に何が何でも手を抜かないってものを決めるの。」

 

「例えば道徳頑張るって決めたらもう絶対その授業だけは本気でやる。資料も発問もとにかくこだわる。絶対に子ども達の心を動かす」

 

「でも理科の授業はプリントでごめんねって感じで。そのメリハリが大事だよ」

 

っておっしゃっていて。

 

本当にこれは大事だなって今も思うんですよ。

 

これから学校始まりますが全部は出来ません。

 

ここだけは子供たちの心を動かしてみせるぞ!っていうものをこれからの学校生活で一つでも作っていきたいですね。

 

ということで、苦しみまーす!

 

本日も読んでいただき,ありがとうございました!