この時期の学校は忙しいのである。
定期考査に新人大会、さらには成績の処理とありとあらゆる事が重なる時期なのだ。
「先生達、夏休み中休んでましたよね?ほら、その分今働いてくださいよ」と学校全体からプレッシャーをかけられている訳である。
こうなるともう体力勝負のところもあり、私はとにかく睡眠時間の確保を大切にしている。
毎日帰宅後は、全力で洗濯と皿洗いを終わらせ、子どもと一緒に21時には布団に入る。
この日も自分の任務を完遂し、床につこうと思った時であるーーーーーーーーー。
ピッピッピッピッピッピッピ。
原因不明の音が急にしたのである。先日ニオイについて私は失態を犯したばかりなので、まず自分を疑ったのだが、この音はどうやら妻にも娘にも聞こえていたらしく、「何? 今の?」とみんなでそわそわし始めた。
そして時間が経つとまた、「ピッピッピッピッピッピ」という音。控えめに言って気になって仕方がない。寝る上ではとてもうっとうしいのである。
虫か?
いや虫にしては音が機械的過ぎる。
「ねぇ、もしかして盗聴されてるとかないよね?」という心配性の妻が発した一言から、母親の警戒アラート発動してしまう。
「なんとしてでもこの音の正体を突き止めよ」
という指令が隊長から出されたわけである。私としてはもうとにかく早く寝せて欲しい一心であり、うちを盗聴するやつなんているわけねえだろと思っているわけだが、原因不明の音が鳴り続ける状態に娘も不安がり始めており、もはや何とかしなければならない状況だった。
寝る寸前の状態から電気をつけ、まずは空気清浄機や扇風機と言った家電を止めて耳を澄ます。
ピピピピピピピピ。
それでも鳴りやまない。いったい何なんだ!?この音は?! 早く眠りたい一心から段々イライラし始めた。この時すでに9時30分を過ぎている。私は一刻でも早く眠りたいのだ。
しかし、音は鳴りやまない。10時を過ぎた頃に娘が「もう眠りたい」と言い始めた。
ちくしょう、こっちが眠りたいわ!! お前秋休みだろ! 明日も幼稚園ないくせに!!
とキレたい気持ちをグッと抑えた。
(最近講習で習ったのだが、日ごろ我慢している大人ほど自分の子供にも我慢を強いたくなるらしい。そのことがよく分かる夜だった。)
ピピピピピ。
そうこうしている間にも謎の電子音は鳴りやまない。その回数を数えて見たりする。今回は5回。
ピピピピピピピピピピピピ。
かと思えば今度はもっと長い。しかも時間の間隔もバラバラ。心なしか場所も先ほどとは違う気がする。何回聞いてもどこから音が出ているのかがつかめない。
「ねぇ、これじゃない?」と妻が話しかけて来た。
ひたすら耳を澄まし続ける私を尻目に妻はスマホで
「マンション ピピピ」
というとても間抜けなワードで検索をかけていたのだ。
どうやらその結果、
火災報知器ではないか
という仮説に行きついたのだ。
火災報知機は電池切れの際にピピピと音が鳴るらしい。また火災報知器の設置が義務化されたのは10年前だという。
つまり、10年前に設置された火災報知器が今になって一斉に電池切れを起こしており、その結果、色んな所から電子音がしている、というのが隊長の立てた仮説だった。火災報知器は寝室だけでなく、リビングにもダイニングにも設置されているので、この仮説には妥当性があった。
ここまで仮説が立ったので、明日私が管理会社に電話することを約束し、この日はここでようやく眠りについたのである。(23時就寝。←チクショウ!! もっと早く寝れたのに!!)
次の日、私は朝イチで管理会社に電話した。
「もしもし、昨日から天井からピピピピという音がします。もしかしたら火災報知器の電池切れではないかと思っています。こちらの火災報知器は電池切れで音が鳴るタイプでしょうか。また電池切れの際はどのような手順になるのか、教えてください」
私の問いに対し、管理会社はこう答えた。
「今調べましたが、
そちらの住宅では火災報知器は電気式であり、電池は使用しておりません。
他にも電子音がなるような設備はありませんので、
こちら側の理由で音が鳴るというのは考えにくいです。
もう一度入居者様の持ち物で音が鳴りそうなものがないか、お確かめください」
何ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?!!??!??!?!?!?!
まさかの展開だった。我々夫婦としては90%火災報知機と判断していたにも関わらず、それはないと断定されてしまったわけである。
だとしたら一体何なのだ?! あの音の正体は!!?
家に帰り状況を報告すると隊長からは「そんな報告はいらん。何が何でも音の正体を突き止めよ」という指令が出た。
リビングで走り回る子どもを静かにさせて、耳を澄ます。
ピピピピピピピピピ。
やはり今日も音がする。なんなんだ、これは。やはり天井付近から音がするのは間違いない。もしやクーラーか?そう思ったのでクーラーの電源を切ってみる。
ピピピピピピ。
ちくしょう、鳴りやがった。もはやこうなってくるとホラーである。音は確実にするのに、その正体がつかめない。
今クーラー付近から音がしているのは間違いない。すると隊長が今度は
「クーラー ピピピ」
で検索し始めたのである。
すると、「ねぇこれじゃない?」と言って見せて来たのがこの動画だった。
www.youtube.com
是非動画を見て欲しい。
この動画を見た時、私と妻と娘の三人で「これーーーー!」と叫んだ。もう音が完璧に昨日の夜から聞いていたそれだった。
どうやらエアコンの室外機からカネタタキムシが入り込んだ人が書いたブログがヒットしたらしい。我が家もそうで、室外機からカネタタキムシが入って天井を移動しながら、音を鳴らしているのだ。色んな場所から音がしてきたのも、それなら合点がいく。
正体は分かったが何も打つ手はない。しかし、謎の音の正体が無害のカネタタキだと分かって我が家に平穏が訪れたのも間違いない。
このブログを書いている今も、まだカネタタキムシは元気に鳴き続けている。
どうやらこの虫は9月の涼しくなるあたりから現れ始めるらしい。
天井から降り注ぐ音に、秋の訪れを感じる今日この頃であるが、安眠の為にも早く成仏してくれることを祈るばかりである。