部活にハマって家庭を壊す教員は多い。
なぜか。
それは部活が面白いからである。
やればやるほど子ども達は上達する。試合に勝てるようになれば周囲から感謝され,評判も上がる。そうやって指導者側も自分の自己肯定感が高まる。それが部活である。
一方で家庭はどうだろうか。
家庭は成果が見えにくい。そもそも家庭における成果とはなんなのだろうか。
頑張っても報われるとは限らないし,むしろ空回りすることだってある。
そんな虚しさを抱えながらも生活を維持していかなければならない,それが家庭という場所なのである。
昨日のホワイトデーも私自身がその難しさを実感したので書いておきたいーーーーーーー。
ホワイトデーの朝,家族全員で朝食を取る準備をする。
朝食の準備を終えた妻は朝ごはんの目玉焼きの卵に「ホ」とケチャップで書いて私に出してきた。
妻に聞く。
「これ何?」
「今日ホワイトデーだから」
どうやら妻は心配しているのである。このガサツを絵に書いたような夫がちゃんと自分に対してホワイトデーのお返しをしてくれるかどうかを…。
朝食を食べ終えると,コロナウィルスのことも考え,人が少ない朝イチを狙って娘を公園に連れて行く。
道中の車の中でも妻は私に言う。
「そういえば今日ホワイトデーだねぇ…」
妻が心配するのもよく分かる。私はそういう記念日等を軽視しがち,平気で忘れがちな唯我独尊男なのである。
しかし,舐めないで頂きたい。
私もこの数十年の経験から,いかに女性がそう言った記念日を大事にしたい生き物なのかは理解してきたつもりだ。
今日はお返しするそぶりを全く見せずにちゃんと用意するつもりでいる。これでもちゃんと策は考えてあるのである。
私は娘が昼寝をするタイミングで「ちょっと出かけてくるわ」と言って車で出かけた。
前々から気になっており、妻がまだ食べたことが無かったケーキ屋のケーキを3つ購入したのである。
一人でケーキ3つは多いと思われるだろう。
しかし,これでいいのである。
1つでは物足りない。かといって2つでは「あなたも一つどう?」となった時に妻に物足りなさが出てくる。
つまり,3つなら,「あなたが一つ,私も一つ,最後の一つは分けますか」ともなる。(もちろん妻が二つ食べてもいい。)
更に3つも買えばどれかは妻の好みのものがあるはず,つまり「当たり」が出る確率が高い。
こういう時は「これしか買わなかったの?」よりも「こんなに買わなくて良かったのに」を目指すべきなのである。
さらにその3つはいちご系(季節重視),チョコレート系,王道のショートケーキ,とタイプをばらけさせることによって更に当たりが出やすくなることを狙った。
万全の体制で次に向かったのは精肉店である。
ここでは,妻の好物であるすき焼き肉を買うのだ。
奮発していい肉を買う。
夕飯をすき焼きにしてしまい,私が調理することで妻の夕飯作りの手間を減らす。完璧,我ながら完璧な夫である。
これで喜ぶはず。
「我に敵なし」そんな気持ちで私は家に帰ったのだ。
家に帰ると,早速妻にケーキを渡す。
「これ,ホワイトデーのお返し。いつもありがとう」
「ありがとう。そっち置いといて」
(そっち置いといて…だと…?)
どうやら娘が昼寝中にドラマが見たい妻はそちらに夢中で私のケーキには今あまり関心がないようである。
私の中に暗雲が立ち込める。まさかハマってないのか…?
夕飯はすき焼きである。ここはポイントを稼ごうとブランド牛の霜降りロースを買ってきたのである。
さっと煮て妻に差し出す。卵と絡めて一口で妻は牛肉を口に運ぶ。
「うん、美味しい!」
「やっぱりすき焼きよね!」
良かった…ようやく喜んでもらえたか。
安堵した私は自分も一口食べる。甘い脂が口の中に広がってすぐに溶ける。これは旨い。よしガンガン食うぞ…。
そう思うと,妻がまた口を開いた。
「あ、でも…」
「ちょっと脂っこいなぁ。いいお肉ってもたれるよね…私そんな食べれないかも…」
不安になり,慌てて野菜を調理して差し出す私。少し間をあければ大丈夫だろう。せっかく買ってきたのに食べないなんてもったいない。
そして野菜を挟んでから,もう一度買ってきた牛肉に火を通し,妻の卵の中に入れる。
一口食べると妻は言った。
「うーん、、やっぱりお肉もういいわ。食べてくれない?」
(もういいわ…だと…?)
結局買ってきた肉のほとんどを私が食べたのだ。
喜んで欲しかったのに…私ったらとんだ空回りおじさんである。
ちなみに買ってきたケーキは3つとも妻が食べた。
もともとそのつもりで買ってきたのだ。満足してくれたらそれでいい。
ただ,3つともいくとは思っていなかった。(もちろん,別にいいのだけれど。)
しかし、家庭におけるその成果とはかくも分かりづらいものだな…そんなことを思った1日である。