白眉最良

教員が書く日々のあれこれ。

怖がらせる指導が無意味な理由。

最近この本を読んでいました。

医療事故、航空機事故といったあらゆる事故の原因を調べて失敗をどう防ぐかを研究した一冊です。

 

 

学校という場所もミスが許されない場所なので、参考にしたくて読みました。教育に通ずる部分も多いので教育関係者にもオススメの一冊となっております。

 

 

本書の中では「スケアードストレートプログラム」というものが紹介されていました。

 

これは1970年代にアメリカで行われたものです。10代の非行少年、少女達を凶悪犯達のいる刑務所に連れて行きます。

 

ここで子供達は囚人達から恐ろしい言葉をかけられるのです。

 

「かわいい野郎がいるじゃないか。おい、そこの黄色シャツ!今度捕まったらたっぷり可愛がってやるからな」

 

「ここじゃあ性欲をどう発散するか知ってるか?考えてみりゃわかるだろ。頭の悪い若造をカモにするのさ。お前らみたいな奴のことだよ」

 

威勢が良かった子供たちは困惑し、泣き始める子もいます。

 

囚人達は警告しているのです。自分たちみたいになるな、と。

 

そしてそれを聞いた子供達は「人生が変わった」「これからは犯罪になるようなことはやめる」と言ったようなのです。

 

このプログラムは当時絶賛されました。刑務所を訪れた子どもの90%近くがその後更生しているとも報道されたようです。様々な専門家が太鼓判を押しました。

 

1999年にはドキュメンタリーが放送され、その中でも大人になったティーンエイジャー達は奇跡的な更生を遂げているかのように見えました。そして、それぞれが刑務所での3時間が自分の人生を変えたと発言しているのです。

 

しかし、このことに疑問を持ったある大学教授は検証を始めます。

 

「90%が更生した」というデータはどこから来たのか。

 

調べた結果、プログラム後に「刑務所を訪問した後の子供達には変化はありましたか?」などというアンケートが家庭に対して行われました。

 

 

しかし、そのアンケートは刑務所訪問からたった数週間で行われたものだったのです。

 

また実は非行少年や飛行予備軍でもない家庭の子が多く含まれていた。つまり、元々犯罪も何もしない子も多くいたのです。

 

また統計に加えられたのが「アンケートに答えた家の子ども達だけ」だったことも判明しました。

 

訪問後も子どもが非行を繰り返しているような家庭はアンケートを破り捨てたかもしれませんが、統計には含まれませんでした。

 

つまり、データがあまりに偏っていたのです。

 

そこでこの教授は改めて非行歴のある少年たちを集めてこのプログラムを実施して、新たなデータでこのプログラムの成果を測った訳です。

 

その結果、「プログラムに参加した子ども達の再犯率は参加しなかった子どもに比べて高い」という事実が判明したのです。

 

これは囚人から怒鳴り散らされた経験が心に傷を残し、「怖くなんかなかった」と仲間や自分自身に証明するためにわざわざ罪を犯してしまうそうです。

 

津波の後に子ども達が津波ごっこをしたり。

 

性的な被害を受けた子どもが自分から性を求めるようになったり。自分が受けた恐ろしい体験を「自分にコントロールできるもの」とすることで安心しようとする心理が人間にはあるんですね。特に子供はその傾向が顕著です。

 

このスケアードストレートプログラムもまさにそれを助長するような大失敗だった訳ですね。何も実施しない方が状況の改善につながったと思われるという結論まで出されました。

 

これを読んで私は本当に反省しました。

 

今年、子ども達が法に触れるような事をした際に、生徒指導の場面でどぎつく声をあげてしまったからです。

 

この本を読んだ時に改めて自分の指導は大間違いだったと後悔しました。

 

今もそのやんちゃな子達が問題を起こすたびに「自分のあの時のアプローチが間違っていたからではないか」と自分自身を責めています。

 

一見効果的に見えそうな「怖がらせる指導」ですが、言い換えればそれは「次の問題行動を助長する指導」なのかもしれません。

 

もう私のやってしまったことは取り返しのつかないことですが、忘れないように心に留めて2度とやらないようにしたいと思います。

 

読んでいただき、ありがとうございました。