荷造りをしていて分かったのだが、子供を2人連れて行く旅は荷物が膨大だった。
トランクが足りずに追加購入。更には子どもが食べるお菓子や離乳食、飲み物、おむつはすぐに取り出せるように手持ちバッグにすべて入れる。四人の旅行だが、荷物をもてるのは実質2人なので、親は随時2人分の荷物をもつことになるのだと気づいた。
空港に着くと、明らかに我が家は他の旅行者より荷物が多い。というか、息子(一歳)が抱っこなのでそもそも10数キロ抱えて動いている。しかも厄介なことにこの息子は抱っこ紐から降ろせと空港で泣き叫んで暴れる。頼むから黙っててくれ。
沖縄行きの飛行機に並ぶ人の中にはヘルメット姿で並び、自転車を預けているおじさんもいた。
これから沖縄で自転車に乗るのか。海辺を自転車で走ったらどれだけ気持ち良いだろう。一人でぷらっと自転車旅に行けて、空港内をヘルメット姿で歩き続けられるその自由さが私には羨ましかった。
沖縄に着いて最初にしたのが、レンタカーの手続きだった。
鉄道があまり発達していない沖縄では、レンタカーでの移動が一般的らしい。子どももいるので我が家も例に倣って四日間車を借りることにした。
借りたのはトヨタのライズ。子連れの四人旅となるとこれでギリギリのサイズ感で、トランク二つがなんとか入った。
ちなみにこのレンタカーを借りる場面で私は判断を迫られることになる。
人身保険の他にレンタカー屋に対するオプションの保険に入るか聞かれたのだ。
1日600円で、もし車に傷がついたら10万おりるのだという。
支払いはレンタカー代とは別に4日間で2400円になる。本が2冊買える値段だ。
日頃からケチで有名な私だが、この時は迷った。なぜなら事前に妻から沖縄の道路事情について散々聞かされていたからである。
「沖縄はワイナンバーって言って、Yがナンバーにつく米軍関係者がバンバン走ってるらしいよ」
「ワイナンバーと事故ったら全然取り合ってもらえないんだって」
「高速も海風?で滑りやすいから80キロ制限なんだって」
「レンタカーだらけで慣れない人ばっかりだって」
「あと渋滞すごいって」
妻はそういうが、運転は慣れたものでここ数年私は事故っていない。
ワイナンバーなる車と事故っても得意の英語を活かせば交渉に持ち込めるだろう。(英検5級)
もし相手が米軍関係者で掴み合いになったとしても、小学校の頃に習っていた柔道を活かせば切り抜けられるはず。(ちなみに柔道は6級)
なので、オプションについて聞かれた私は自信をもってこう答えたのである。
「保険つけてください。よろしくお願いします」
車に乗って走り始めると、走っている車はほとんど「わ」ナンバー(レンタカー)でびっくり。更には「わ」だけでは足りないので「れ」にも手を伸ばしているのだとか。
目の前をビュンビュン走っていく「わ」と「れ」。そして渋滞。うおー、超こえー!保険入っといて良かったー!
しかし少し運転に慣れてくると私も冷静になり、先程の保険のやりとりを思い出していた。
ここ数年の私は事故っていないので、このわずか四日間のうちに事故を起こす確率は多分1%に満たないはずだ。
つまりルーレットで言うと、1%の確率で10万あたる出目に2400円かけたのだと同じことなのだ。冷静に考えたら当たるはずがない。しかもたとえ当たったとしてもその時は自分の不幸がセットでついてくる、けして素直には喜べない賭けである。
着いて早々私は2400円を捨てたのだと思ってへこんだし、そんなことに凹んでいる自分の小ささにまた凹むのだった。
慎重に慎重に車を運転して、宜野湾のホテルへと向かう。後ろの席では息子がチャイルドシートから出せとここでも泣いて暴れていた。
ホテルに着いて最初にしたのがビーチに行く事だった。四日間の予定はずっと雨で、雨が降らないタイミングがこの時間しかなかったのだ。
ホテルの前のビーチに繰り出していくと、野良猫がたくさんいて、スリランカの野良犬たちを思い出した。
曇天でも分かるくらい、沖縄の海は綺麗だった。白い砂浜と透明度の高い海。
ここでビールでも飲めたら最高なのだろうが、そうもいかないのが子連れ旅なのである。
初めての海に興奮した息子は海水に触り、その手で砂を触るのであっという間に砂まみれになって唐揚げにされる前みたいになっていた。
砂のついた手で顔を触るので、砂が目に入って泣く。ウエットティッシュで拭いてやってもすぐ触ってまた泣く。学べよ、痛いんだよそれ。
目を離すとすぐ唐揚げになるので片時も目が離せない。うぉー、思ってたのと違うー!
結局海は30分で切り上げる。そんな我々の上を大きな音を立ててオスプレイが飛んで行った。そうか、沖縄の人はこれが日常なのだなと思った。
時間が無かったので、夜はスーパーで適当に沖縄っぽいものを買い込み、ホテルで食べた。
子どもは疲れていたのか、お腹がいっぱいになると風呂にも入らずにあっという間に寝た。
私は起きて、買っておいたオリオンビールをあける。
我が家は敬虔なイスラム教徒なので、子供が寝る前に飲むアルコールが禁止されているのである。(※仏教徒です)
お惣菜で買っていたサーターアンダギーやらラフテーやら、沖縄っぽいものをつまみにオリオンビールを飲む。
オリオンビールってこんな味だったのか。そういえば飲むのはこれが初めてかもしれない。
なんで来たことはあるのに、飲んだことがないんだろう。そうか、前に来た時は未成年だったからだという当たり前のことに気づいた。
高校の頃のテンションを考えると、未成年のアルコールが法律で禁止されていて本当によかったと思う。
もしアルコールが16歳くらいから認められていたら、修学旅行の度に全国で死者が出ること間違い無し。若い時というのは自由ではあるが、その分別の無さは恐ろしいものがある。
改めてビールを飲みながら、修学旅行の時の自分と今の自分の違いを感じた。
子供が産まれて自由ではなくなった。やりたい事が出来なかったりするし、旅行にしたってかかる金額はずっと膨れる。
でも、飛行機が飛び立つ瞬間に歓声を上げて喜んだり、ホテルのベッドで飛び跳ねて喜ぶ子どもの姿を見ることには、変え難い喜びがあると思った。
そんな子どもが喜ぶ姿を見て喜べる自分で良かったと思ったし、多分自分の親がそうしてきてくれたから、自分もそう思えるのではないかと思った。
私も大人になった。
そんなことを感じた1日目の夜である。