教職者K

30代教員の日々の徒然。

田舎のサウナ。

躍動感ある熱波師

私はサウナが好きなのだが、子どもがいるとなかなか行きにくいのがサウナという場所なのである。

 

まず当たり前だが子どもと一緒にサウナに入ることが出来ない。

 

また我が家では妻が娘を男湯に入れることに対して激しい嫌悪感を示すので,私が娘と一緒に入って面倒を見るということができない。

 

つまり,サウナに入りたい場合、娘は妻が連れていくことになるわけだが,こうなると「サウナを楽しむ私」と「風呂で娘の世話に追われる妻」という構図になってしまうのである。

 

結果的に風呂上がりのリラックスタイムに「あんたばっかりいいよね」と言われることになる。これではせっかくほぐれた全身が硬直してしまうではないか。

 

成田悠輔氏が以前テレビで夫婦生活の秘訣として「配偶者より幸せになってはいけない」という言葉を紹介していたが,まさしくその通りだと私は思う。結婚とは自分の幸せを後回しにすることと同義である。

 

なので妻の実家に行った時のみが私にとってサウナに入れるまたとない機会なのである。

 

妻と義母が娘を連れて行ってくれている間に、私はサウナに入ることができる。

 

なので暇な時間を見つけると,

 

「今日はどうですかね? 温泉(サウナ)とか行きませんか?」

 

「お義父さん,今日もお仕事お疲れさまでした。どうです? 温泉(サウナ)で疲れを流すとか。お義母さん,良かったら一緒に行きませんか?」

 

と,ことあるごとにハウ・アバウト・サウナをするという、面倒な義理の息子なのである。

 

こうしてたまにサウナにありつくことが出来るのだが,妻の実家は田舎であるためにどこも昔ながらのサウナなのである。

 

まずどこも水風呂がめちゃくちゃ小さい。大人2人が浅漬け状態の茄子みたいにぎゅうぎゅうになる。

 

そしてどこも手持ちのタオルのほかにバスタオルを着用しなければならないという謎ルール。もちろん整うスペースなし。通路で爺さんが大の字になって寝ていたりする。

 

更には田舎でコミュニティーが強いため,みんなサウナ内でぺちゃくちゃ喋るのである。

 

先日行った際もじじい三人がサウナ内でぺちゃくちゃトークを繰り広げていた。

 

「今度の選挙、金山さん出るって」

「え〜? あの人には無理だべっ」

「んだんだ。でも朝から演説しとったで。んでもあの人には無理だな」

 

なんでも近々行われる県議会選挙の話のようである。

 

サウナでは静かにするのがルールである。しかし、ここは田舎のサウナであり、コミュニケーションの場でもある。

 

新参者の私が何か言うのも無粋だと思い、黙ったまま汗が出てくるのを待つ。

 

「明日のほれ、フェブラリーステークスは何賭ける?」

「俺はどうしようかな~。まぁレモンポップかな」

「一番人気でねぇか。面白くねぇ」

「いいのいいの,俺はいつも固いから」

「んじゃ俺はドライスタウトにしとこうかな。」

「佐々木さんはどうすんだ? あんたの予想良く当たるから聞かしてけろ」

「う~ん,どうすっがなぁ…」

 

ジジイ達の話は展開し、次は競馬の予想に。

 

彼らのトークが気になりつつも、私も汗をかき始める。

 

「そいやよ,最近あっちのサウナはいっとる?」

「遠くてなぁ。ガソリン代も高くていけねぇわ」

「ガソリン高いよな。あとあそこは温度高すぎてな,ちんちん痛いわ」

「分かるわ。あそこはちんちん痛ぇ」

 

とめどなく往復する会話。

 

そろそろ私も限界だが、このジジイ三人より先に出たらなんだか負けた気がする。

 

せめて一人出るまでは我慢である。

 

「当選すんだべかな?」

「おい,早くどの馬に賭けんのか教えろ」

「あそこはちんちん痛いよな」

 

汗が噴き出しそろそろ限界だが、ジジイ達がなかなか出てくれない。

 

会話のやり取りを聞きながら,私の頭の中で勝手にスタートするレース。

 

一番 ギカイセンキョ(△)

二番 フェブラリーステークス(◎)

三番 チンチンイタイ(×)

 

彼らの会話はどこで終わるのか。各馬一斉にスタートである。

 

「まぁ無理でねか。あの人では。人望がないもの」

「まぁそうだわな。俺もあの人には入れねぇ」

 

終盤のラストスパートで飛び出したのはギカイセンキョ。

 

「そろそろ俺も限界だわ。出る」

「え~、ちょっと待てや。んじゃ最後に何賭けるのかだけ教えてけろ」

「んだなぁ~,う~んどうすっがなぁ……じゃあ、メイショウハリオで!」

 

パシッとタオルで膝を叩き,出ていこうとする佐々木(と思われる男性)。

 

やはり最後に追い上げたのは大本命の競馬の話。

 

一着 二番 フェブラリーステークスで決まりか…

 

そう思ったところで扉に手をかけた佐々木はこう言ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…チンチン痛い」

 

訂正!訂正!

 

一着 三番 チンチンイタイ!!!!!!!!!!

 

まさに鼻の差。3番人気だったチンチンイタイがぎりぎりでゴールである。

 

ここのサウナでも痛いということはそもそも佐々木の股間はずっと痛いのではないか?という疑問が湧いたが,ここで私も限界となり,退出。

 

飛び出した私は水風呂にドボン。佐々木と水風呂でぎゅうぎゅうの浅漬け状態になり,痛いと申し出ていた股間が気になるのであった。

 

気持ちは良かったが,果たしてこれは整ったと言えるのだろうか…

 

サウナを心から楽しむのはなかなかに難しいのである。