トレーニングを趣味の一つとしている私にとって,健康診断というのは毎年自信をもって受けられるものの一つなのである。
同僚が「今週は健康診断だから今だけ酒を控えてる」だの「健康診断まで炭水化物やめないと」なんて軟弱な話をしている中で,私は
「この健康診断,一夜漬け勢が!」
と内心マウントを取っていたくらいである。
なんせトレーニングに加えて最近では酒もほとんど飲まなくなった。更には白米も全て玄米に変え,睡眠時間や毎日の歩数も記録をつけている。ハッキリ言って直前だけ健康にふるまうような軟弱な輩には負ける気がしないのである。
そんな私なのだが,今年の健康診断の結果が返って来て驚いたことがある。
何という事だろう、項目の中に「C」があるではないか。
クレアチニン 1.12 (基準値 0.6~1.10mg/dl)
評価「 C 」
思わず目を疑ってしまった。
しかし,ネットで調べてみるとこれは筋トレをしている人に良くあることらしい。筋肉を動かすためのエネルギーを使った後に出てくる老廃物が人より多くあるために,この数値は引き起こされたようである。
だから、その数値を見て私は思ったのだ。
ダメ―ジを受けながらもトレーニングを続けている俺、かっこいい…
異常値が出るほどトレーニングしてる俺、すごい……と。
(←アホか。)
これはいわば男にとって修行によってついてしまった傷のようなものだと思ったのだ。
ルフィにとっての胸の傷。
緋村剣心にとっての頬の傷。
そして,私にとってのクレアチニンの値,なのである。
なので私はこれは筋トレによるものであるため問題ないと勝手に結論づけ,健康診断が終わってしばらくしてもこの結果を放置していたのである。
しかしながら,職場で『健康診断で「C」がついた人は必ず年度内に再受診し,結果を報告しなければならない』というお達しが告げられ,病院を受診することになった。
改めて行われる血液検査の時には、
「血管が浮き出ていてとても取りやすいです」
「鍛えていて血管に弾力があるのでプチって音がしましたね」
などの誉め言葉を看護婦さんからいただき,すでにこの時点で心は天にも昇るような気持である。(筋トレしてて良かった~!)
しばらくして結果が出たのだが,案の定クレアチンの値が基準よりも高かった。
更にはCK・血清アミラーゼといった「筋肉がどれだけ壊れているか」を示す値がオーバー。
その結果を見た私の気持ちは,さながら傷つきながらも戦う戦士のようなもので。
ドラゴンボールで言う所のセル戦でボロボロになった孫悟飯になれたような気がしたのだ。
小学生の時,めちゃくちゃかっこいいと思っていた孫悟飯に36歳にしてなれたぜ!ヤッホー!
そんな私に,結果を見た医師はこう聞いた。
「……もしかして,筋トレとかしてます?」
おっ分かる先生じゃないかと内心ほくそ笑む私。
そうなんですよ,その老廃物がこの値を引き起こしてるんです!もっと聞いてくださいよ!先生!私は戦士なんですよ!と言いたい気持ちをぐっと押さえつつ私は首を縦に振った。
「……うーん。筋トレしてる人にありがちなんですけど。このクレアチニンが高いのは老廃物が血液に出てる証拠なんですよね…」
そうなんですよ、先生! 私トレーニングしてますから! 先生も私を戦士だと思ってくれますよね?
「なんというか……トレーニングに体の回復が追いついてないんですよ」
「もしくはトレーニングの組み方が下手」
「昔だったらこれぐらいの運動量でも全然問題なかったと思うんですけど。筋トレしてこの値が出るって言うのはもう若くなくなってきてる証拠なんですね」
「確実にその老廃物で腎臓に負担掛かってますから。これ以上負担がかかった状態が続くと最悪の場合人工透析とかにもつながりますから,気を付けてくださいね」
私の中で誇らしかった気持ちが一気にしぼんでいく。
私には少年漫画の主人公にありがちな「回復がめちゃくちゃ早い」という能力が欠如している事が判明したのだ。
誇らしかった傷が一転してただの老化を知らしめるサインとなり,
私は自分が孫悟飯ではなくて、
だったことを思い知らされたのである。
そんな落ち込む私に医師は笑顔でこう言った。
「まぁ筋トレなんてそんなにしなくてもね。やりすぎはやっぱりダメですよ」
「いざという時に走って逃げられるぐらいの筋力さえあれば、十分です」
医師は最後までそんなミスター・サタンにするようなアドバイスを私にしたのだった。
今回分かったのはトレーニングしていてもけして健康ではないという事。
来年は調整をしてオールAを目指したいものである。